俺と野原しんのすけ

 今日はむちゃ熱かった!ほんまに溶けそうやった…なんか最近おやじ臭出てきたかも。焦るわー!8×4買おかなー
 昨日の夜やったか、もう一つ前の夜やったか、クレヨンしんちゃんの映画を見た。なんでクレヨンしんちゃんやねんと思うけど、だいぶ前に友達がオモロイって言ってたから、借りてみた。確か俺の借りた奴は、「しんちゃんの戦国時代」みたいなやつで、ほんまにおもろいんかーって疑いながら見ていた。
 約一時間後…俺の目頭は熱くなっていて、その目あたりに得体の知れない水滴が流れ始めた。テッシュで鼻水を取り、その水滴が涙と分かったのにさほど時間はかからなかった。中盤あたりから、「やばい、泣きそうや」と感じた俺は必死に涙こらえる準備をした。その俺が立てた壁の一線を、しんちゃんは超えたのだ。しんちゃんは。
 作品が終わったエンドロール、野原一家(クレヨンしんちゃん家族)を馬鹿にしていた俺の中に一種の尊敬が芽生えていた。ひろし(しんのすけの父)は言う「しんのすけのいない世界に、俺たちがいる意味はない」俺はこんなおやじになりたいと思った。
 今日俺はバイト先の店に顔を出し、この感動を誰かに伝えたくてウズウズしていた。俺は店員に聞く「お勧めの映画なんかある?」クレヨンしんちゃんの感動を伝える前のネタふりだ。あまり映画を知らないと前置きをおいた後、彼女は言った。「○○おもしろかったなぁーあとちょっと恥ずかしいけど、クレヨンしんちゃんの映画シリーズおもしろいでークレヨンしんちゃんがウエスタンの格好してるのやつとか…」
 その言葉を聞いた時。俺の中ではじけた驚きが、ウズウズを消し去った。その瞬間、俺の右手は、脳から出た伝達指令と同時に握手を求めた。彼女は戸惑う。しかし俺の右手は早く、俺の意識を超えて動いた。そして王将の餃子を頼んだ時のような速さで、二人は握手を交わした。
 俺の右手を動かしたしんちゃんは、ピーマンを食べることができない。俺の目頭を熱くさせたしんちゃんは、何かとケツを出したがる。俺の脳は正常に動き始め、二人の握手の手が離れた瞬間、少し恥ずかしくなる。その後、店を出た俺は考える。
 俺はひろしになりたいのか?違うだろ!俺は俺だ。危ない。危ない。
 最近は、本当にひろしになれると思っている人が増えているんではないかー。またクレヨンしんちゃんが本当にいると。萌えキャラが本当にいると…
 妄想、現実、妄想、現実。俺は妄想。俺は現実。花占いみたいに、行ったり来たり。ラリラリラー
 俺はどこにいる?FUCK!エイトフォー!お前はくさいんだ!!!
 

 俺はカウンターの女性に、気を使い。1050円の五十円玉を探している。
 「商品を確認してもらえますか?」
 「はい、OKです」
 確かにそこには、クレヨンしんちゃんのウエスタンがあった。