季節は秋

 昨日俺は、海に行ってきたんやー車で下道を走ること二時間半。肉で有名な、松阪市に到着。海といっても目的は、釣り。港を探し、早速魚を釣る。しかし、この日は雨。
服をびしょびしょになりながら魚釣り続行。釣りをしてしばらくすると、常連の釣り師の人が僕らに喋りかけてくる。歳は60歳くらい、歯は数えるほどしかなくかつぜつは悪い。そんな歯無しのじーさんと世間話。なんか人生を悟りきったような風格さえただよわす風貌・口調には凄みがあった。とりあえず歯無しのじーさんの言っていたことで、印象に残っていることは、「おかま」は素晴らしいということや。「一回おかまバーたるとこに行って、話しを聞きなさい」と言われた。「はい…」
 2・3時間釣りしてたかなぁー夕焼けの見れるくらいの頃には、もうすっかり晴れていたんや。釣りを止めて、灯台の下でボケーっとする。一緒に来ていた人物は、失恋気味の友人(タトゥー)。沈黙。沈む夕日。船がたてる波の波長。溢れるセンチメンタリズム。オレンジと鉛が混ざる空。沈黙。「かえろっかぁ・・・」
 帰りの車は、重苦しいかった。タトゥーは、どうも朝から悩んでいたみたいだ。三重県を出たところで、タトゥーの携帯電話が鳴る。「電話や」タトゥーは何かに取り付かれたように車内から出て行き、電話をはじめた。俺は車に一人。ウインカーの光が目の前に広がる。ウインカーのカチッカチッという音を、どれだけ聞いたやろうか。毎秒一回音がするなら。3600回以上は聞いたんやろうなぁー。
 タトゥーは帰りの車で、俺を一時間も車の中で放置プレイしたためか。やけに優しかった。俺はこんなことでは怒らへん。「なんか飲む?」自販機を見つけ、俺はタトゥーにジュースをおごってもらう。そのジュースは微炭酸やけど、いきよいよく飲んだせいでちょっと涙が出てきた、でもどこか爽やかやった。「よかったやん」俺はタトゥーにつぶやいた。
 昨日の天気は雨のち晴れやった。気持ちのいい夜。二人は不自然なくらい離れた距離で、ジュースを飲んでいた。俺は昼間に会った、マイルドセブン1mgのタバコを大事そうに吸う歯無しのじーさんを思い出した。
 この前の台風の影響で、濁った海。それを見ながら、歯無しのじーさんは言ってた。「釣りたいときに魚は釣れずに、ふとした時に魚はかかる。」
それを思い出して、俺の顔は少しにやついてしまった。少し寒いくらいの風が吹いた。
「すっかり季節は秋やなぁー。」俺は誰に言うでもなく声に出した。